aventure

合コンも終わりに近づいた頃、
桜智は翼から連絡先を教えて欲しいと言われた。

もちろん桜智にその気は無かったが
近くでそれを聞いていた真緒が

「連絡先くらい教えてあげたら？」

と桜智に言って、
勝手に桜智の連絡先を翼に教えてしまった。

「あー、個人情報漏洩だよー！」

桜智が怒りながら帰ろうと真緒の手を引いて席を立つと、目の前に波瑠が立っていた。

「あ…」

「久しぶり。」

波瑠は大学の友達数人と飲みに来たみたいだった。

波瑠の横には結美も、本物の川上颯斗もいた。

「今日は何？合コンかなんか？」

波瑠にそんな風に聞かれて
桜智は何となく恥ずかしくなった。

「まぁ、付き合いで…仕方なく。」

言い訳するような返事をして
波瑠を見ると、波瑠の目はまっすぐ自分を見つめていて
桜智は少し息苦しくなって目をそらした。

「親父なら元気だよ。

もう普通通りの生活に戻ってる。

お袋も…まるで桜智の事なんか無かったみたいにね。

だから安心して。」

何も聞いてないのに波瑠は自分から家の話をした。

「そう…ですか。

じゃあ私はこれで。」

桜智は何も聞きたく無かった。

鴻の話も聞きたくないし、波瑠の顔も見たく無かった。

どんなに忘れたふりをしても
まだ気持ちの整理は出来てない。

それを波瑠に知られたくなかった。

その時、後ろから桜智の腕を誰かが引いた。

桜智が振り向くと翼が

「何？知ってる人？」

と桜智に聞いた。

「だ、大学の先輩です。」

「そっか。」

翼は波瑠に軽く会釈すると

「さっちゃん、行こう。二次会行くよね？」

と桜智に笑顔を向けた。

それを見た波瑠は許せない気持ちになった。