aventure

鴻は桜智のそんな声を聞いて
逢いたくて堪らなくなり、深夜にも関わらず
家を出て行こうとした。

そこへ波瑠が帰ってきた。

「何？こんな遅くから何処行くの？」

「え？あー、ちょっとクライアントに呼び出された。」

鴻は息子に嘘をついて女に逢いに行く自分を情けなく思う。

それでも一人で自分を恋しがる桜智を放っておけない。

桜智は女でありながらまるで自分の子供みたいに愛しくもある。

家庭を無くし、一人で生きようと頑張っている桜智を見ると手を差し伸べたくなる。

鴻は桜智に逢いに向かう車の中で
何度も車を止めて躊躇っては前に進んだ。

こんな事を波瑠に知られたら
完全に親子の関係は壊れてしまうだろう。

これが父親のする事なのだろうか？

それでも寂しくて堪らずに逢いたいと願う桜智を突き離せなかった。

桜智は真緒のマンションの前で鴻を待っていた。

早く逢いたくて鴻の来る方角へ駆け出しそうになる。

それでもすれ違うのが怖くてはやる気持ちを抑えて
その場に座って待っていた。

あと少しで桜智の待つ場所へ着こうという時に
鴻の携帯が鳴った。

電話は家からだった。

「もしもし、あなた？」

切迫した翠の声が聞こえ、鴻は何事かと思った。

翠は余程の事がない限り電話などして来ない。

「どうかしたのか？」

「凪の様子が変なの？

すごくお腹が痛いって…熱もあるの。」

鴻は咄嗟に急ブレーキをかけ、車をUターンさせた。

凪のことを聞いて桜智の事が頭から消えた。

スピードを出して急いで家に戻った。

家の前に既に救急車が来ていた。

何も知らない桜智はマンションの前で
じっと鴻の来るのを待っていた。