赤ずきんと気弱な狼さん
 アレクシスは自室の天井を眺めながら、昼間の出来事を思い起こす。
 赤ずきんの祖母は、彼女が刺繍を施した誕生日プレゼントをたいそう喜んでいた。そして美味しいジャムとマーマレードと甘いお菓子を、アレクシスにまで振る舞ってくれた。
 こうして思い出すだけで、気持ちの溶けるような幸福な時間だった。
「…」
 だからこそ、アレクシスは辛い。
 赤ずきんの祖母こそが、彼が〈成人の儀〉の標的として定めた人間だった。森の奥深くに住む孤独な老婆。縁もなければ、いなくなったあとに悲しむ者も少ないと思ったのだ。
 それなのに。
「…赤ずきん」
 彼女の笑顔がよぎる。
 耳の奥で、彼女の笑い声が蘇る。
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