赤ずきんと気弱な狼さん
「狼って…、あの狼か!?」
 デニスの大声に赤ずきんは顔をしかめます。二日連続で彼女が森へ行ったこと、しかも今日はおばあさんの家には行っていなかったことをどこからか聞きつけて、デニスは彼女の家に飛び込んできたのでした。
 理由を尋ねるデニスのあまりのしつこさに、つい本当のことを白状してしまった赤ずきんは後悔します。
「なに考えてるんだ、赤ずきん。僕の言ったことを忘れたの?」
「違うけど…、心配しすぎよ、デニス。彼ははいい狼だわ」
「冗談じゃない! よりにもよって…」
 デニスは赤ずきんの言葉を聞きません。
「目を覚ませよ。いい狼なんているわけないだろ。やつらは凶暴だし、人間を食べるんだぞ!」
「アレクシスは違うの!」
 赤ずきんもつい声を大きくしてしまいます。
「彼は人間を食べないって…、襲わないって約束してくれたの」
「約束だって?」
 赤ずきんは頷きます。
 そう、夕方別れる前にアレクシスは確かに言ってくれたのです。〈成人の儀〉は行わない。いずれの選択もせず、一族から逃げると。
 明日の午前中に、村の外れで彼と落ち合うことになっていました。村々を巡る商人の荷馬車に彼を乗せてしまえば、狼の一族だってもうアレクシスを追えないはずです。
「そんなもの、口先だけさ」
 〈成人の儀〉に関することはデニスに伝えていません。ですので、赤ずきんも上手に反論できず、苛立った視線をデニスに向けることしかできません。
「もう帰って」
「帰るさ。でも、もう森へは行くな」
「…」
「赤ずきん!」
「帰って!」
 赤ずきんが叫ぶと、デニスは小さく舌打ちをして帰って行きました。
 赤ずきんだってデニスが嫌いなわけではありません。それでも、彼は単なる幼馴染です。森に行くなと指図されるいわれもなければ、ましてやアレクシスを悪く言う権利だってないのです。
「…デニスの分からず屋」
 お母さんが仕事から帰ってくるまでの間、赤ずきんはほんの少し泣いてしまいました。
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