図書室の花子さん(仮)

1週間後の放課後。
斎藤くんが、本を返却しに来た。

「お願いします。」

彼は、何事も無かったかのように、本を返却する。私は、今すぐここで本を開いて中身を確認したい衝動に駆られるがぐっとこらえた。

「元の場所に戻しておいて下さい。」

バーコードをなぞり、定型文をできるだけいつも通り言うよう心がける。


本を受け取った斎藤くんは、会釈をすると一番奥の本棚、右端へと向かった。

その後ろ姿を視線で追いかける。

やがて、本を戻した彼は、先程より少し早足で図書室の出口へと向かう。
彼を気に留める素振りを見せないよう、私は、手元にある文庫本の表紙カバーを見つめた。

パタン。
という出口の閉まる音がして、ようやく気が抜ける。

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