図書室の花子さん(仮)
その刹那。
彼が私の頭を軽く撫でた。
ほんの一瞬の温かさに驚き、慌てて顔を上げると、斎藤くんはもう扉を開けて出て行こうとしている所だった。
彼と、最後にもう一度視線が重なる。
その時、斎藤くんは、私が今まで見た中で1番の笑顔で、
「(待ってて。)」
と、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で囁き、図書室から去っていった。
……"待ってて"って、どういうことだろう。
告白の返事を?それとも今日の帰り?
脳内で疑問符が浮かび上がった時、
「……あ。」
私は、あることを思い出した。
速まる鼓動を抑えようと、無意識に足音を立てずに、本棚へ駆け寄る。もう何度、一番奥右端の此処へ立ったことだろう。
大きく息を吸って、見慣れた一冊の表紙をめくる。
そこには、二つ折りのルーズリーフではなく、見慣れない白い封筒が挟まれていた。
震える手で、私はその封を開ける。