コガレル ~恋する遺伝子~


「真田 圭 君、だよね?
ってことは確か、専務の息子さん…ん?」

 葉山さんの手元と同時に、キャップの下の俺の顔も見られた。

 俺があの洋菓子屋一族の息子ってのは、公表してる訳じゃないけど、 知る人には知られてる事実だ。
 ただ、今は面倒だ。
 真田家と葉山さんの関係に疑問を感じたに違いない。

「まぁ、そうです。
お世話になってます、って言うべきですかね?
杉崎さん、こいつをタクシーに乗せて、どこに向かうつもりだったんですか?」

 癪にさわる涼しげな顔を歪ませることはできなかった。
 それでも俺の嫌味な質問に何も答えはなかった。
 この様子じゃ、親父の婚約者だとはもちろん知らないんだろう。
 俺だってつい最近知らされたばかりだし、無理もない。

「失礼します」

 今は腕を組む杉崎にそれだけ言い残すと、背中に葉山さんを乗せたまま駅の階段を登った。

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