コガレル ~恋する遺伝子~


 次の日、仕事の前に一度家に帰った。
 昨日は結局、涌井の部屋に泊まって、そのまま内見にも行ってきた。
 マンションは部屋はもちろん、立地も設備も申し分なかった。
 契約にはハンコや銀行の書類が必要だから、揃えて午後の空き時間にでも行こうかと考えた。

 キッチンをのぞいたら、弥生はいない。
 でも窓の外で、シーツを物干しにとめてるのが見えた。

 勝手口横に、仕切られた庭の小さな一角。
 唯一洗濯物を干す場所がある。
 うちは大概乾燥機を使うから、そのスペースは日当たりは良くてもこじんまりとしてた。

 シーツを干し終えた弥生は一度窓から見切れた後、勝手口から空のカゴを抱えて現れた。

「お帰りなさい」

 キッチンの入口で立ってる俺にすぐに気づいた。

「ごめん、酔ってて連絡するの忘れてた」

「もう、心配しましたよ。」

 昨日は家で夕食を食べるって言い残して出かけたんだ。
 でもすっぽかした。

 弥生からラインに
 “ごめんなさい、先に寝ます”って、入ってたのが1時過ぎ。
 その時間まで起きて待ってたのかも知れない。
 本当に酔って寝てたから、そのトークを確認したのは今朝早くだった。

 でも、怒ってはないみたいだ。
 この人も未読無視の前科持ちだからな…


「圭さんのシーツも、外に干しちゃいました。早く乾くから」

 窓の外でシーツが風になびくのを二人で見た。
 知ってる。
 一日の疲れの後、陽だまりの匂いを感じながら寝るのも悪くなかった。
 でもこの腕に抱いて癒されたいのは、本当は…

「朝ご飯、食べますか?」

 俺に向き直ると弥生は聞いた。

「いや、もうすぐ行かないと。今日は夕飯いらないから」

 部屋に上がるためにキッチンを後にした。



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