コガレル ~恋する遺伝子~


「すみません、もう大丈夫です」


 挨拶にこじつけて、本当は和乃さんに甘えたかったんだ。

 もう、大丈夫。
 バッグからハンカチを出して最後の涙を拭った。
 落ち着いたのを見届けると和乃さんは、そっと私の前にメモを置いた。

「実は週に一度だけ、一、二時間掃除に行く契約になってます」

 和乃さんのその言葉の意味は分からなかった。
 二つ折のメモを取り上げて、広げて見た。

 そこに書かれてたのは、新宿区のとある住所。

「圭さんの住所です。守秘義務違反で怒られますね、きっと」

 そう言った和乃さんは、かつて見せたことのない、お茶目で悪戯な微笑みを浮かべた。

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