コガレル ~恋する遺伝子~
和乃さんと別れたその足で来てしまったのは、圭さんのマンション。
よそ者を受け付けない雰囲気のある、気後れするほどの瀟洒なマンションだった。
さっき圭さんに電話をかけてみたら、私の番号は着信拒否されてた。
ラインも同じようにブロックされた。
今手にしてる、和乃さんにもらったこのメモ一枚が最後のアイテムとなり、私の御守りになった。
エントランスのオートロックの外側、腰の高さの装置に部屋番号を入力して呼び出した。
成実さんが出るかも知れない。
そんな緊張も虚しく、何も反応がなかった。
もう一度呼び出しを繰り返したけど同じ。
開かない自動扉の向こうを窺い見る。
ホテルのロビーのような空間。
一角に置かれた黒革のソファ、生花も活けてある。
中に人影が見えた。
この場所に留まってたら、不審に思われそう。
仕方なく外へ出て、道の反対側へ渡った。
少し離れた方が、エントランスと駐車場の出入口が両方とも見渡せる。
街路樹の下に佇むと建物を見上げた。
圭さんの部屋番号は高層階を示してた。
建物を堺にして、右側の上空は澄み渡ってるのに、左は黒い雲に覆われてる。
不自然なコントラスト。
さっきまでの重く不快に蒸された空気が、低い地上を吹き抜ける冷たい風で冷やされた。