コガレル ~恋する遺伝子~
【ナンセンス】
変哲のない日常だった。
今日もいつも通りに出社して、いつも通りの一日のはずだった。
更衣室で制服に着替えた。
それから給湯室でポットへ入れるお茶用の湯を沸かす。
そのまま片隅の専用のバケツに水を汲んで、これまた専用のダスターを手に取った。
これでワンフロア全部のデスクを拭き上げる。
でも乱雑に散らかっているデスクに限っては、空いているスペースだけ軽く拭く。
散らかっているようでも、そのデスクの主にはベストもしくはベターな状態であることが多いから。
全て拭き終えたら給湯室に戻って、沸いた湯をポットに移す。
コーヒーメーカーもセットする。
鼻をくすぐる芳ばしい香りがフロアに漂いだす頃には、一人また一人と従業員が出社し始めた。
葉山弥生。
この有名洋菓子メーカーの営業三課に勤め始めて三年目の社員。
ただし契約社員として、だった。
大学在学中から就活はしていたものの、希望した会社からは内定が貰えなかった。
就職浪人はできないと、契約社員という多少の開かれた門をくぐった。
この職場には契約からの正社員採用もあると聞いていたのも決断材料だった。