コガレル ~恋する遺伝子~
名古屋から帰ってから、日々仕事は立て込んでた。
雑誌の取材は数知れず、映画の出演が数本決まった。
涌井が言うには、女史はここのところご機嫌だそうだ。
夢を見ていたのは、久し振りに午後遅い時間から仕事開始の緩いスケジュールの日だった。
余韻に浸ってたのを邪魔したのは、インターフォン。
「和乃さんか。上がって下さい」
俺の不機嫌は寝起きだからと思われただろう、きっと。
名古屋から帰った日、和乃さんに弥生の連絡先を知ってるのか聞いた。
弥生は和乃さんにも、行く先や電話番号を知らせてなかった。
手詰まりだ。
「良い夢の邪魔でもしましたでしょうか、私?」
リビングに現れた和乃さんの第一声。
やっぱり和乃さんは侮れない。
「お土産を持って来ましたのに」
「今度はどちらへ旅行に行かれたんですか?」
ソファに腰掛ける俺の前で和乃さんは、手提げ袋の中を探った。
…饅頭かなんかだったら、涌井にくれてやる。
だけど和乃さんが俺に差し出したのは、予想に反して菓子じゃなかった。