コガレル ~恋する遺伝子~
渡されたのは、薄っぺらな冊子。
「…何ですか、これ?」
表紙を眺めた。
『 熊本タウン情報誌 略して “くまたん” 』
フリーのタウン情報誌だった。
“ご自由にお持ちください” とよく街角や店頭に置いてあるやつ。
「熊本に行ったんですね?」
「まだ、行ってません」
「…そう…ですか」
和乃さん。
土産は…? ボケたのか…?
「昨日、郵便で届いたんです。
前に九州を周りたいと、私が話したからでしょう」
もう一度タウン誌に視線を戻した。
熊本…
「その時、熊本も良い所ですよ、って言われました」
冊子をそっと取り上げられると、最後のページを開いてまた俺の手に戻された。
散りばめられた情報の最後に編集者の名前。
その中の一人に、弥生の名前があった。
確かに、生まれ育ちは熊本だと言ってた。
弥生は今、熊本にいる。
そしてこのタウン誌の編集に携わってる。
「和乃さん、ありがとうございます」
冊子を閉じると礼を言った。
頷いて微笑む和乃さんに
“ボケてるとか思って申し訳ない"って、心の中だけで謝った。