コガレル ~恋する遺伝子~
【焦がれる理由(わけ)】
防波堤での小休止を終えると、漁協を取材した。
これから旬を迎えるワタリガニやマダコの水揚げが記事にできそうだった。
一通り取材も終えると、冬馬君の運転する車で編集部へ戻った。
冬馬君はフリーのカメラマン。
地元の写真館の息子さんで、学生の修学旅行の同行や運動会の様子を撮影することもある。
そのピーク時や他に仕事が重ならない限り、タウン誌の撮影を手伝ってくれる。
今は私の取材に同行してくれることが多い。
冬馬君はカメラのシャッターボタンは押すけど取材はしない。
それでも取材初心者の私よりも、勝手知ったるで現場がスムーズになる。
なんとか仕事に慣れてきた今、私が撮影しながら取材すれば冬馬君の出番は減る。
それなのに同行してもらうのは、私のデジカメ撮影の腕に救い難いものがあったから。
初取材を終えて見せた私の画像に、編集長の頬は引き攣った。
食べ物を撮れば不味そうに見え、人物を撮れば顔に深い影を写した。
だから今は取材しながら、シチュエーションごとに上手く写せるコツを伝授してもらってる。
レフ板かざしたり、照明当てたり、なぜか冬馬君のアシスタントのようになることもあるけど。
彼の面倒見の良さは、仕事だけには限らない。
最初から何かと私に声をかけてくれた。
絶妙な距離を理解して、見守られてるような感覚になる。
年下なのに尊敬できる、気づかいと優しさの人だった。