コガレル ~恋する遺伝子~
「ただいま、戻りました」
エレベーターもない雑居ビルの二階、
“くまたん編集部” 今では見慣れたプレートの貼られたドアを開けた。
「お帰りなさい、弥生さん」
そう私に声をかけてくれたのは、雑務事務、経理、兼留守番の夢ちゃん。
夢ちゃんは熊本生まれの熊本育ち。
都会に憧れながらも、
「熊本情報を発信する仕事に就いてしまった!」って、頻繁に嘆いてる22歳。
冬馬君とは中学まで同じ学校、同級生だそうだ。
いつもは出迎えなんてしてくれないのに、なぜか立ち上がってこちらに向かって来る夢ちゃん。
私は押さえてたドアを、後ろから来た冬馬君にバトンタッチした。
冬馬君も夢ちゃんの行動に疑問を持ったみたい。
「どうした夢、右手と右足が同時に出てるぞ」
「さ、真田 圭…さんが、」
入ってすぐにカウンターがあって、それを越えたすぐ向こうが夢ちゃんのデスク。
夢ちゃんのデスクからスペースを開けて隣、向かい合わせに並べられてるのが、冬馬君と私のデスク。
さらにスペースを開けて窓際に編集長のデスク。
ちなみに編集長は夢ちゃんのお父さん。
“くまたん” の骨組みはこのデスクの主達、四名で仕上がっていく。
笑いながら冬馬君は、カメラバッグをデスクに下ろした。