コガレル ~恋する遺伝子~
「居ます」

「います?」

 夢ちゃんの人差し指がゆっくりと持ち上がった。

 その指の示す方、後ろ斜めに振り返って見れば、編集長のデスク横の書棚。
 そのすぐ隣に会議室のドアがある。
 指差されたのはその、今は開いてるドア。

 電気が点いてたし、中の長テーブルで接客中の編集長には気づいてた。
 ただ相手はこのデスクからの角度では見えない。
 よくある日常的な光景、何も気にしてなかった。

 事務用イスにギュルっと音をさせて、立ち上がった。
 ゆっくりと会議室へ歩みを進める。

 …いる訳ないでしょう、夢ちゃん。

 一歩づつ、見える角度が変わる。
 編集長とテーブルを挟んで向かい合う人物。


「ホントだ、真田圭だ」

 そう言ったのは、私の後ろから会議室をのぞき込んだ冬馬君だった。


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