コガレル ~恋する遺伝子~
「待って下さい」
驚いたことにそれを全力で止めたのは女史だった。
横で聞いてる本人が気恥ずかしくなるような評価を力説し始めた。
文句を言わず休みなく働いてること、真面目に芝居に取り組んでること、周りのスタッフやキャストに気を使えて評判が良いこと、落ち着いた大人の男になる過程にあるということ…
やんちゃな俺に苦労しただろうに、どんな時でも俺を支えてくれる人なんだ、この人は。
母親みたいに。
本人に言ったら、そんな年齢じゃないって怒るだろうけど。
「彼が勝手に受けた仕事は、私の監督不行届です。責任は私が取ります」
何を言い出すのか。
隣の女史を窺い見た。
女史は何でもないことのように、俺にただ肩をすくめて見せた。
二人で何度も頭を下げて、どうにか社長の許しを得ると、結局何の処分も与えられずに済んだ。
部屋を出ると女史に聞いた。
「クビになってたら、どうしたんですか?」
「なんないわよ、あの人私の旦那だもん」
え?
「えーーー!」
「知らなかったの?」
知らなかったよ…
女史のプライベートなんて興味ないから、まったく。
言われてみれば、同じありふれた苗字だ。
この人を敵に回さなくて良かった…