コガレル ~恋する遺伝子~
【不機嫌スイッチ】
いつの間にか救急箱が用意されてた。
圭さんが膝を手当してくれるらしい。
ずっと痛いとは思ってた。
でもこの時になるまで、こんなに傷だらけだったなんて気づきもしなかった。
「まぁ、それはそれは、よーく寝ていらしたから」
寝てるところを見られた?
破れたストッキングも見られたし。
初対面なのに、ことごとく恥ずかしい…
圭さんに聞かれて考えた。
そもそもどうして寝たんだっけ、私?
記憶をたどってみる。
…そう、光。
寝不足に加えて、二日間ろくに食事をしてなかった。
車の点滅するライトを見てたら目眩がして気が遠くなったんだ。
それを説明したら、圭さんは何かボソッと呟いた。
でも、その声はくぐもって聞き取れない。
聞き返したけど、もう一度は言ってくれなかった。
仕方なく話題を変えてみる。
「圭さんは、もしかして看護師ですか?」
「ハァ?」
なんか睨まれた…
「て、手当が慣れた手つきだったから…」
「准が子供の頃よく喧嘩して、しょっちゅう傷付けて帰って来たんだよ、」
圭さんは使った物を救急箱に戻すと、静かに上蓋を閉じた。
「ご存知の通り、母親がいないもんでね。俺が手当してたって訳」
射抜くような眼差しで睨まれて『ご存知の通り』をひどく強調された…
でも、会話を拒否されることはなかったし、手当は優しかった。