コガレル ~恋する遺伝子~
まとめられた荷物はそう多くなかった。
うちに揃ってるベッドやその他の家具や家電、食器の類は後で処分すると言う。
途中、大家にもそんなことを伝えて挨拶してた。
二人で車まで二往復もすれば、全部積み終わった。
葉山さんが助手席に座って、俺も運転席に乗り込もうとしたその時
「お兄さん、」って、爺さんに呼ばれた。
なんだ?
一度開いた運転席のドアを閉めて、爺さんの前に歩いた。
「弥生ちゃんは本当に良い子だから、幸せにしてやんなさいよ」
聞けば奥さんは前に心臓を病気して、あまり身体が強くないそうだ。
葉山さんは重い物を持ったり、電球を変えたりと何かと老夫婦を労わってやってたらしい。
この建物の老朽化で、他に良い物件が見つかったら引越しなさいと勧めてはいたのに、二人を心配して出て行かなかったそうだ。
なるほどね。
「彼女がお世話になりました」
俺は会釈すると、車に乗り込んだ。
「大家さんは何て?」
車が発進すると葉山さんが聞いた。
「なんか若い頃の武勇伝とか語ってたよ」
「何ですか、それ」
葉山さんは一瞬目を見開いたあと、楽しそうに笑った。