コガレル ~恋する遺伝子~


 専務からは少しお酒の匂いがした。
 でも足取りも、呂律もしっかりしてる。
 きちんと話し合いはできそう。

「あの、お部屋なんですが、家政婦には豪華すぎるかと」

「表向き婚約者なんだから、良いんじゃない?」

 やっぱり婚約者設定は継続中なんだ…

「なんで私が婚約者なんでしょうか?」

「葉山君を守るためでもあるかな」

「…」

 専務の考えはなかなか理解し難い…反応に困る。
 そんな困り顔の私にポツポツと解説をつけてくれた。

「ここは男所帯だからね。あいつらに牽制しておかないと」

 『あいつら』…きっと真田兄弟のことだ。
 私のためにありもしない心配をされるなんて、かえって二人に申し訳ない。

「お嬢さんをお預かりするのに、親御さんにも申し訳ないからね」
 
 親子ほど年の離れた有名洋菓子メーカーの専務と婚約、しかもご家族と同居、なんてことの方が…私の家族が聞いたら腰を抜かすと思います。

「というのは、俺の調子の良い建前」

 専務、今自分を『俺』って呼んだ。
 やっぱり少し酔ってるのかも。

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