コガレル ~恋する遺伝子~


「弥生ちゃんさぁ、なんで今日すき焼きなの?」

 夏日だった今日。
 夕げの食卓、鍋を囲む兄弟と私。

「また汗かいちゃったよ」

 准君はサッカー部に所属してるそうだ。
 汗をかいたと確かに帰宅してすぐにシャワーを浴びてた。

「それは圭さんが、すき…」
「手抜きだな、鍋は主婦の手抜き」

「な、なな…」

 なんで、自分が昼にリクエストしたのに!

 知らん顔でお肉を口に運ぶ圭さんを睨みつけた。
 圭さんは唇に付いた溶き卵をペロッと舐めると、不敵に笑った。

「狙ってた肉を取られたからって、そんな睨むな。まだたくさんあるから」

「ち、違っ、」

 圭さんの意地悪には、いつもなぜか素早く反論できない。
 悔しがる私のとんすいに圭さんは、鍋からすくったネギを入れた。

「なんでネギなんですか! この場合、お肉でしょ!!」

「キャンキャンうるさい、なぁ准」

 話をフラれた准君は、大の大人の幼稚なやり取りに呆れ顔。
 お兄さんを無視して、新しい牛肉を鍋に入れようとした。

「准君、ダメ!
しらたきの隣にお肉は、固くなるんだから!」

 私の声にビクッとした准君は結果、箸から肉を滑らせた。
 しらたきの隣に。

 圭さんが言った。


「女鍋奉行、真夏に現る」


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