コガレル ~恋する遺伝子~


 勝手口のドアと玄関のドアを急いで確かめた。
 どっちにも内側からの鍵がかけられてる。
 良かった…
 家の中にいるのは間違いない。

 ひとまず安堵して玄関の扉を背にした。
 振り返ったら、さっきは気づかなかった廊下の先に微かに光が見えた。

 防音室だ。
 ピアノが置いてある。
 その部屋の締まりきってないドアが、蛍光灯の光を漏らしてた。

 覗くと葉山さんはピアノを前にして座ってた。
 このドアの位置からは、横顔が見える。
 こっちを向かないから、表情は分からない。
 身体が固まってるのは、たぶん恥ずかしさのせいだろう。

 ちょうどいい。
 ここは防音されてる。
 ドアを閉めれば、会話は誰にも聞かれない。

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