コガレル ~恋する遺伝子~
「ちょっと詰めてくれる?」
ピアノチェアーは座面がベルベット生地の横長で、二人座れる代物だった。
動こうとしない葉山さんの隣に無理矢理腰を落とした。
グリグリと太腿で俺のスペースを広げると、観念したように少し向こうへズレた。
「圭さんには何でもなくても、私には大事件です」
何でもないことはない。
俺の心臓は早鐘を打ったんだから。
「事件って言うと、容疑者がいるってことでしょ?」
「犯人はここにいます」
そう言って葉山さんは、俺を指差した。
言いがかりをつけられて、やっと合わせることができた視線。
…このイス。
母親とよく並んで座ったっけ。
その時は二人でも余裕があったはずなのに、どういう訳か今はぎちぎちだ。
そうだ、今指を差されてる俺の図体がデカくなったんだ…
「あのさ、あんたが風呂に入るって俺に言いに来てから、二時間以上経ってたんだよ?
まさか、まだ風呂にいるとは思わないでしょ?」
「電気ついてましたよね?」
確かに、思い返せば電気はついてた。
“ あいつ、電気消し忘れてんな ”って、思いながら服を脱いだんだ。
それを説明したら、無言になった。
とは言え、かつて葉山さんが電気を消し忘れることなんてなかったんだけどね。