コガレル ~恋する遺伝子~
食事も飲み物も揃って、それぞれが思い思いにお酒の席を楽しんでた。
「課長、次は何を飲みますか?」
空になりそうなグラスを見てたずねた。
「弥生ちゃん、何聞いてんの。主役なんだからそんなの私に任せて」
「じゃ、ビール」
課長が頼むと、綾さんは皆のオーダーも集計するために向こうへ行ってしまった。
「部長に昇進されるそうですね、おめでとうございます」
私の言葉に杉崎課長は複雑な表情をした。
「部長の地方異動は葉山の解雇にも関わってるし、俺の昇進は手放しでは喜べないね」
課長はそう言うと少ないビールを煽ったから、グラスは空になった。
「きっかけはポストの空きかも知れませんけど、そこに杉崎課長が任命されたのは実力ですよ」
私はもう外部の人間。
人間関係を円滑にするために気を使う必要もない。
私のおこがましくも率直な発言に、課長の眉尻は心なしか下がった気がした。