極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
プロローグ
真っ黒い寒空に、粉雪が舞っていた。
凍てつく空気が頬を刺す。


それ以上に私を見下ろす彼の視線に温度がなくて、心の中から凍えそうだった。


「……別れたい。私、無理」


私の手を掴んだ彼の手だけは確かに温かくて、目を見ては言えなかった私は絡んだ指先だけを見て別れを告げた。


「……本心?」


静かに問い返された。
その声にも感情が見えなくて、自分が言い出したことなのに怖くて心臓が早鐘を打つ。


試したわけじゃなかった。
引き留めて欲しいと思ったわけじゃない、本当に限界だった。


だけど次の瞬間、静かに終わった恋に私は愕然と空を見た。


「……そう。わかった」


涙ひとつない、怒りもない、これが、私たちの温度差なのだと、はっきりと理解した。


淡々と私の別れを受け入れた彼の背後に、丸いお月様が見える。
あのお月様のように、彼はやっぱり私には手の届かない人だったのだ。

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