極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
「それに、私が別れるって言っても何も言わなかった。私のことはそれほど好きでもないんだって、倉野さんがいればそれでいいのかなって、私思っちゃって……そうなったら余計に聞けなくなって」
「なるほどねえ……」
その後、朝比奈さんのエリアを私と伊崎のふたりで分けて引き継ぐことになり、仕事で二人きりになることも少なくなった。
私はずっと朝比奈さんのエリアを手伝ってきたわけだから店舗の挨拶周り程度で、朝比奈さんは伊崎との引継ぎに時間をかけていたから。
彼が大阪に行く日、一度だけ、電話が鳴った。
ほんの数秒ほどで切れたコールは、何か意味があったのだろうか。
それに、わからないのはあの頃よりも今の朝比奈さんだ。
「その人とは大阪赴任中どうだったの? 会ってたのかな」
「知らないよそんなの。だから私もまったく今の状況がわからないの! 朝比奈さんは倉野さんとは何にもないって言ってたけど……」
「っつか、そもそも朝比奈さんって真帆のどこが好きなの?」
「あ、それ今言う? 泣くよ?」
私だって謎だよ、なんで付き合ってくれたのかわからない。
特別美人でもない、仕事はこの三年努力して多少できるようになったとは思ってるけどその分思い知ったこともある。
本当にデキる人間は、私のように必死にならずともスマートに熟せるものなのだ。
「ま、それもあれも全部、ね?」
ぽん、とカナちゃんが顔の前で手を叩き、上目遣いで私を見た。
「朝比奈さん当人に聞かなければ、わからないことなのだよ」
「うん……それは、まあ」
「それに、三年前の朝比奈さんのことは私にはわからないけど、今の朝比奈さんは私はちょっと、応援したいんだよねえ」
言いながら、彼女は頬杖を突き、思案気に目線を上に向けた。
「なんでよ? カナちゃんなんて言われて丸め込まれたの?」
「それよ。真帆は、そう思ってるみたいだけどさあ、私別に丸め込まれてないよ」
「歓迎会がお開きになったあと頼みがあるからって言われて、真帆との待ち合わせの前に店の近くで会ったのよ。朝比奈さん、これまでのことについて何の説明も言い訳もしなかったけど、ただ、真帆と話がしたいから譲ってくれって。心配なら隣の部屋にいてくれてもいいからって」
「えっ!? 隣にいたの!?」
「いや帰ったけどね」
びっくりして、次にはかくんと落とされた。
冗談ぽい話の流れに、私の方が呆れて笑ってしまいそうになったけれど、カナちゃんの表情は決して冗談混じりのものではなく。
「そこまで言われて野暮なことできないわよ、きっちり頭まで下げられたんだもの」
至って、真剣な目でそう言った。