極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
彼の言う『全部』が、大阪への転勤だけを指している、と考えるには何か不自然な気がした。
もっとちゃんと知りたくて、朝比奈さんの腕を握った。
「朝比奈さ……わっ」
ほぼ同時に、彼に強く抱きすくめられて、胸元に顔を埋める結果になる。
「酷いことをしたから贅沢は言えないね。こうして傍にいられるだけでも」
「待って、んぶっ!」
さっきまでの切なさを誤魔化すかのように彼の声は明るくて、ふざけて私の頭をぎゅうっと胸に押し付ける。
それに逆らい、なんとか首を反らせて顔を上げた。
「待って、誤魔化さないでちゃんと聞かせてください」
ぎゅっと彼のシャツを握る。
少し目を見開いた彼に、私は深呼吸をして、もう一度言葉を重ねた。
「……ちゃんと聞きたいです。今度は、もう逃げませんから」
三年前のこと、倉野さんのこと。
何を言われても嘘に聞こえそうで、そうしたらまた傷付きそうで聞きたくなかった。
だけど今一度、ちゃんと彼の話を聞きたい。
そう思ったのは……初めて彼が、私に嫉妬心を隠さず見せてくれたからかもしれない。
あの頃の間違いを、正していこうとしてくれているようで……それなら私も、信じたいと思った。
あの頃、疑心暗鬼に捉われて信じることが出来なかった私を、もしも今から正しても遅くないのなら。
もう一度、信じてみようか。
だって、どんなに否定しても終わった恋だと自分に言い聞かせても。
私の胸から彼が消えたことはただの一度もなかったのだから。