極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
腕の力が緩んで、ふたりの間に少しの隙間が出来る。
そのまま身体を離すと、彼は運転席のシートに背中を改めて預け、ハンドルに手を乗せた。
けれど走り出すわけではなく、三年前のことを話し出した。
「……専務から、極秘で大阪行きの打診があった。それが、真帆が見たっていう一度目。専務が待つという料亭まで彼女を車に乗せた。社内では話せない事情があったんだ」
「事情?」
「大阪は関西、もっと言えば西日本の拠点だった。当時の現状のデータを渡されて、西日本の立て直しを頼まれた。あの頃、僕以外にも何人かあった大阪への人事異動は、その為だよ」
そこまで来て、彼はなぜか少し言いづらそうに私から目を逸らす。
「倉野さんとのことは、なんでもないのは確かなんだけどね……」
「なんですか。落ち着いて聞きますから言ってください」
「専務に、優秀だから彼女を秘書として連れていけと言われてた」
ずきん、とコンプレックスが私の胸に針で刺したような痛みを与えた。
だけどそれは、致し方ないことだ。
彼女と私とでは、能力も立場も、そもそも比べる対象でもない。
「二度目はハイアットのロビーで待ってくれ、と彼女に言われてた。レストランの個室で専務が待ってるから、と……大阪行きの最終の意思確認だった。まあ、上から言われれば拒否権なんてあってないようなものだけど」
「……だから、倉野さん、知ってたんですね」
「ん?」
「朝比奈さんの異動のことです。私、朝比奈さんからじゃなくて倉野さんから聞いたのが先だったから……」
あの時、私はてっきり朝比奈さんからプライベートで聞いたのだと、勘違いしてしまってた。
私の被害妄想だったのだろうか?
知ってて、当たり前だったのだ。
彼女も異動の可能性があった、ということなんだから……結局、彼女はこちらに残って専務の秘書を続けてた。
それって、朝比奈さんがそれだけは断ってくれた、ていうことだ。
仕事のことだ、私の個人的な感情なんて挟んではいけないのだけど、やっぱりちょっとほっとした。
反面、急に刺のある厳しい声を出したのは、朝比奈さんだった。
「……それ、本当?」