極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
「……よそいく?」
「いいから入ろ」
先に立って少し離れたところのテーブル席に座った。
斜め向かいに朝比奈さんの背中が見える位置だ。
倉野さんの表情は、よく見えて、ひとつ改めて確信した。
朝比奈さんは彼女とは何もないと言ってたけど、倉野さんは三年前から好意を持ってることには間違いない。
表情を見て確信してしまった。
じっと見てしまっていて、彼女の視線がすっと動いた時、ばちっと目が合ってしまう。
「あら」
恥ずかしそうに頬を染めて、彼女が微笑んで会釈する。
その仕草に当然、朝比奈さんもこちらを振り向いた。
「……こ、んにちは」
と、こちらも軽く会釈する。
朝比奈さんともばっちり目が合ったが、彼は動揺することなくふんわりと毒も無さげな柔らかさで微笑み返し、すぐに前に向き直った。
「良いんですか? おふたり、部下の方でしょ?」
「ん? 今は昼休憩の時間だからね。上司が声かけたら休憩にならないでしょう」
そんな会話がふたりの間でなされていて、しっかりと耳が拾ってしまって、むかっと嫌な感情が胸に湧く。
昨日は私に向かってあんなこと言ったり顔にキスしたりしたくせに……と、もやもやもやもやしながらも、昔のような不安はなかった。
彼女と会うということは聞いていたし、何か考えがあるんだろう。
まさかそれが今日だなんて思わなかったけど。
だからさほど動揺もしてなくて、どっちかっていうとそわそわと落ち着かないのは伊崎の方だった。