極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
「おい」
「えっ」
俯いてスマホを操作していたのだが、真正面からいきなり不機嫌な声をかけられて驚いて顔を上げた。
見れば、声に違わず不機嫌な伊崎がそこにいる。
ごめん、今一瞬存在忘れてた。
「何俯いてひとりでにやついてんの? ってか笑ってる場合なのかよ」
「あ、ごめん。友達からのメッセージで」
俯いてコソコソと朝比奈さんとおバカなやりとりをしていたなんて、言えない。
その後、私たちのプレートが運ばれてきたのと入れ違いくらいに、朝比奈さんたちが席を立つ。
そのままさらーっと、通り過ぎて出て行くのかと思っていたのに、彼は真横に差し掛かった時いきなり声をかけてきた。
「ふたりはこの後外出?」
後ろの倉野さんが、何やら余裕たっぷりに微笑んでいるのが癪に障った。
「はい」
「GW中日なんで。何かと忙しいんですよ」
だからさっさと食いたいんですけど、と言わんばかりに態度が悪いのは、伊崎だ。
「繁忙期は店舗の使いっぱしりだと割り切らないとね」
忙しいのは当たり前だろう、と朝比奈さんは言いたいのだ。
店舗の奴隷であるべき、とばかりに奔走するのが朝比奈さんのマネージャー時代のやり方だった。
ってか、このふたり、面談の時もこんな喧嘩腰の会話だったのだろうか。
ちゃんと面談出来たのか不思議だ。
「吉住さんは、無理しないように」
突然伊崎から、私へと視線が移る。
え、と戸惑う間もなく、朝比奈さんが少し腰を屈めて私の足を気にするように覗き込む。
「まだ全快じゃないだろうから。足、ひどくしないように」
「もう大丈夫です。先日は送っていただいてありがとうございました」
あくまで部下の顔でお礼を言ったつもりなのだが、何気に朝比奈さんの距離が近い。
「だめ。無理はしない」
と甘やかすような言葉を吐いてから、ぽんと私の頭を撫で、何食わぬ顔でレジの方へと歩いて行った。
その後ろに続いた倉野さんの目が一瞬鋭く細められたのを見たが、私は笑って目を逸らし見なかったフリをする。
朝比奈さんめ。
今の絶対わざと、倉野さんを煽った。