極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
扉が閉まる寸前、プレートをカシャンと動かす音がした。
きっと扉には【使用中】と表示されているのだろう。
「まったく、君は驚くほどタイミングがいいよね」
声を聞く前に、香水の香りですぐに朝比奈さんだとわかっていたから、驚くこともなかった。
後ろから肩を押されて押し込まれたのだが、その手がするっとお腹に回って抱きしめられそうになり、直前で抜け出して向かい合った。
「昼間のことですか? 今度は本当に偶然です。社内でランチをしようと思ったらカフェか社食かの二択しかないじゃないですか」
昼休憩の一時間の間にどちらかでかちあう可能性は充分にある。
まあ、外で食べるかどうか、というところから考えれば、確率は二分の一と言うわけにはいかないけれど。
「それはそうなんだけどね……来るといいなと思ったいいタイミングだったから」
「え。かちあって良かったんですか」
「いい具合に煽ってくれたなと思って」
悪戯が成功した子供みたいな……と言えば可愛らしすぎるだろうか。
朝比奈さんは楽し気に笑っていて、私は眉を顰めた。
「煽ったのは朝比奈さんです。悪趣味ですよ」
「これでも結構、怒ってるからね」
「え……」
怒っている、という割には表情は相変わらず穏やかに微笑んでいるのだけど。
そこにぞわっと一瞬背筋が寒くなった。
「それより、定時過ぎても帰って来ないから直帰するのかまだ終われないのかと思ってた」
「あ、いえ。仕事は、終わりました」
後はもう帰るだけ、と言おうとして、自分がどうしてわざわざ社に戻ってきたのかを思い出して恥ずかしくなった。
倉野さんと会社以外で会うのだろうか、とそれが気になって戻って来てしまっただなんて絶対言えない。
朝比奈さんを疑う気持ちは、実はもう今はそれほどないのだけれど……昔のことを聞き出すためとはいえ、倉野さんとふたりで会うのかと思ったら嫌で仕方なかった。
特に二人の姿を現実に目にしてしまうと、どうしてもその映像を受け入れたくない自分がいる。