極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
こうして、何事もなく仕事をしていた様子の本人を目の前にしてしまうと、邪推してわざわざ戻ってきた自分が急激に恥ずかしくなった。
「僕はもう少しかかるけど、待っててくれたら食事に」
「いえ、終わったので帰ります」
頭を下げて、さっさと朝比奈さんの横をすり抜けミーティングルームから出ようとしたのだが、扉に到達する前に彼の腕が伸びてきて通せんぼされ、一歩下がる。
「じゃあせめて送るから」
「いいです、早く帰りたいので」
下がった分だけ朝比奈さんも一歩踏み出して来て、微妙な距離を保ちつつ後ずさりの鬼ごっこだ。
もっと距離を詰めようと思えば詰められるはずなのにその状態、きっと逃げ回る私をからかってるのか油断してるのか、強引に抜けられる気がしたのだ。
「失礼しますっ」
ぱっとダッシュしてすり抜けようとして、扉に触れる直前だ。
ふわっと後ろから抱きすくめられた。
背中があったかい。
抱きすくめるがっしりとした腕の感触だとかが、どうしても伝わってきて私の心臓を高鳴らせる。
「何するんですか、もう。帰りますってば」
「気にして帰って来てくれたのかと思ったのに」
「違います!」
図星を指されてうっかり語尾が強くなった。
だけどお構いなしに私の髪に顔を埋め、彼がそのまま話すものだから息遣いが髪の中まで届いて妙に艶かしい。
「ほんの少しでもいいから、真帆との時間が欲しいだけだよ」
「こっ……ここ、会社、です……」
「うん、だから少しだけ」
緩まないけど決して強くもない腕と、宥めるような諭すような口調に、抗おうにも言葉が続かず俯いた。
抗えなくなってきている。
彼がいつのまにかすんなりと距離を詰めて来るから、身体が憶えている彼の温もりに甘えたくなってしまうのだ。
だらりと下に落ちていた手をおずおずと持ち上げて、前に組まれた彼の腕に手を添えた。