極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
気付いた彼の腕の力が、また少し強くなる。
難しいことを考えないで、このまま流されてしまえば楽なんだろうなあと考える。
すっかり強情っ張りになった私の懐にも、いつのまにかするりと入り込まれてしまった。
ガッチガチにガードしていたつもりだったのに、何が何やら手懐けられていく自分が不甲斐ない。
「苦しいです」
「うん、少しだけ」
「少し少しって」
「一緒に居られなかった分、ちょっとでも触れてたいんだよ」
雰囲気に飲まれてしまいそうで叩いてしまう憎まれ口にも、彼はどこ吹く風といった様子でお構いなしだ。
言えば言うほど甘い言葉で返されて、私の体温を上げてしまう。
「そんなに思ってくれるんだったら、なんでもっと早く……」
うっかり恨みごとが口をついて出て、途中で止めた。
別れを告げたのは私の方なのだ。
全部を朝比奈さんのせいにすることは、あまりに身勝手だ。
だけど、あっさり離れて三年、彼は一度だって修復しようと私の元を訪れたことはなかったのに、という思いは確かにある。
海外赴任ならともかく、関東と関西だ。
遠いに違いないけど、会えない距離ではないのに。
「そうだね、ごめん」
「謝って欲しいわけじゃないですけど」
「嘘、恨みがこもってた」
徐に彼の右手が私の左手を掴み、掬い上げる。
それを目で追えば仰ぐ形になって、口元に寄せられて行く自分の手の向こうに、優しく細められた目とかち合った。
「ごめんね」
謝りつつも、理由は話してくれない。
その上、手の甲に口づけながらまたしても私の中をモヤモヤッとさせる発言をする。
「……もう一度倉野さんと会うよ。今度は、社外で」