極上スイートオフィス 御曹司の独占愛


一瞬憮然とした表情を浮かべた倉野さんだったが、次にはくるりと踵を返した。


「……なんか言われた?」


倉野さんが見えなくなってから、伊崎がそんな質問を投げかける。


「なんか、というか……今夜朝比奈さんに会うから、ってことかな?」


明らか、それを言いに来たような気がして仕方ないのだけれど、それは私が色眼鏡で見るからだろうか。


冷静に人の真意を探るって案外難しい。
どうしても先入観が入るし、入ってるかもしれないと思ってしまうから自分の受けた印象が果たして正しいのかもよくわからなくなってくる。


首を傾げていると、隣から舌打ちが飛んで来た。


「ちっ……朝比奈さん何考えてんだよ」

「は?」

「まあいいや。飯行こう」


手を引っ張られて、前につんのめる。


がっしりとした大きな手は多分、倉野さんに言われたことに私がダメージを受けたと思い、助けてくれようとしていることは、わかったのだけど……さっきの倉野さんと伊崎のやりとりに、妙に違和感があって仕方ない。


「ねえ……伊崎、」

手を引かれて歩き出した直後だった。


「吉住?」


さっき伊崎が居ないと言ったはずの朝比奈さんが、統括室の方から歩いてきて私たちを見ていた。


「あ、朝比奈さん? 居ないんじゃあ」

「お疲れ様っす。行こう、真帆」

「は? え?」


朝比奈さんに向けた声は、さっきの倉野さんに対してと同じくらいに険のある声だった。
加えて、突然下の名前で呼ばれて面食らう。


強引に手を引っ張られ、そのまま伊崎に連れ出されてしまった。
背後に朝比奈さんの視線を感じる。


だけどそれ以上に伊崎とまず話さねばならない、そう思った。


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