極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
「大体あんな女とお前天秤にかけられて腹立たねえ? あの女性格極悪だぞ。しれっとした顔で人をコケにして、今日だってあれわざわざお前に……」
怒りというのは、怖いものだなと思う。
頭に血が上り過ぎて、自分がぼろっとこぼした発言に気づいていない。
「伊崎、それ何の話?」
「あ?」
「しれっとした顔で人をコケにした、って」
さっきの倉野さんとのやり取りを見ていた時から、何か妙に違和感があったのだ。
伊崎は私のことを通して倉野さんを知ってるし良い感情を持ってないのはその通りだが、直接か関わったことがな いはずなのに倉野さんまで伊崎に対して棘があるような応酬だった。
伊崎は数秒、固まっていたが私が聞きたいことを理解すると徐々に顔色が悪くなり、すいっと目を逸らす様は明らかに不審だった。
「……伊崎、倉野さんのこともしかしてよく知ってるんだ?」
「いや。まあ、知ってるよ専務の秘書」
「そういう意味じゃない。人をコケにしてって何?」
伊崎の口が、ぐっと真一文字に引き結ばれた。
その瞬間から、疑念がじわじわと確信に変わっていく。
「……伊崎。私に何か言いたいことはない?」
睨みながらダメ押しすれば、観念したかのような深く長い溜息が上から落ちて来て、伊崎は肩を落とした。
「……ごめん」
「伊崎?」
「俺、お前に謝らないといけないことがある」
話す覚悟を決めたらしい、とにかく座ろうと力なく間近にあったカフェを指差す。
「知らなかったんだよ、マジで。朝比奈さんと付き合ってたのは倉野さんだと思ってたんだ」
そこから始まった伊崎の独白は、聞けば聞くほどに驚きよりも『やっぱり』という思いが強く、同時にあの綺麗な笑顔の裏で伊崎をあっさり心理操作していた倉野さんを空恐ろしく感じる内容だった。