極上スイートオフィス 御曹司の独占愛


朝比奈さんの胸元で、僅かな振動音が聞こえる。
彼はスーツの内側からスマホを取り出し確認すると、ぽんっと私の頭に一度手を置いてから背を向けた。


恐らく、エントランス付近まで倉野さんを迎えに行ったのだろう。
これから倉野さんが来る、緊張するべきなのに朝比奈さんの背中を見送りながら逆にほうっと気が抜けた。


それは伊崎も同じだったようで、えらく長い溜息が正面から聞こえた。


見れば、テーブルに置かれた伊崎の手が、若干カタカタと震えている。


「……めっちゃビビってるくせになんであんなこと言うの」

「うっせぇ武者震いだよ。っつか、全然心配いらねえよ、あの人めちゃくちゃ本気だろ……なんでああいう顔普段見せないんだろうな」

「……まさかその為?」

「だって知りたいんだろ。三年前のこととかさ……俺には結局喋ってくんなかったけど」

「煽り過ぎだよ! バカなの!?」

「ちょっとくらい妬かせた方がお前だってわかりやすいじゃん」


それは……伊崎がこないだのことを知らないから!


先日、私が伊崎の話ばかりするとそれだけの理由であれだけヤキモチを見せた彼だ。
この後のことを思うと、一体どうなるのか空恐ろしい。

それに、だ。


「……朝比奈さん、争うつもりみたいだけどどうすんの」

「いやいやいや違うだろ、争うつもりじゃなくて潰すつもりだろ。人生詰むわ」


ぶんぶんぶん、と顔を左右に振って伊崎は完全白旗を上げた。

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