極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
朝比奈由基の真実
数分も経たず戻ってきた朝比奈さんの隣には、ぴったりと寄りそって歩く倉野さんが居た。
一方的に倉野さんがすり寄っているのではない。
朝比奈さんが手を取ってエスコートするような仕草にむっと眉を顰めてしまい、正面にいる伊崎ににやにやと笑われた。
朝比奈さんが必要以上にくっついているのは多分、私と伊崎を彼女の視界から外す為で、私たちもできるだけ顔を伏せていたが、彼女は私たちを視界にいれることもなく朝比奈さんの誘導のままテーブルに着いた。
なんと、私の真後ろの席だ。
互いに背を向けるように座る形で、多分伊崎には届かないかもしれないが私の耳にはふたりの会話が聞き取れる距離だった。
「まさか、朝比奈さんから誘っていただけるなんて……驚いてしまいました」
弾むような声は、喜びを必死で抑えているのがわかる。
「不躾をお許しください。このような場所を指定してしまい不快に思われないかと少し不安でしたが」
「朝比奈さんのお誘いを断る理由なんて……」
会話が聞こえるだけで見えないというのは、変に想像力が働くものらしい。
しなを作る倉野さんが頭に浮かんでイラっとした。
「僕も一度、ゆっくり話がしたいと思っていたんです」
ああ。
朝比奈さんのことだから、きっと穏やかそうに笑っているんだろう。
そこから和やかにふたりの会話が進む。
今日の仕事が忙しくて昼食もそこそこだった、といった話から好みのレストランの話だとか。
主にはしゃいだ倉野さんが次々彼に質問を投げ掛け、彼が答えていく。
完全なプライベートの会話だった。
「朝比奈さんて、お酒がお強いってお聞きしてます」
「そうですね、酔って前後不覚になるようなことは滅多に」
「羨ましいわ、私、カクテルが大好きなんですけどすぐに酔ってしまっていつもあまり楽しめなくて」
「女性はそのくらいの方が可愛らしくて良いじゃないですか」
すみませんね。
ビールやらチューハイやらいつもがぶがぶ飲んでまして。