極上スイートオフィス 御曹司の独占愛


「私、つい舞い上がってしまって……三年前覚えておいでですか。専務に、あなたについて大阪に行くようにと言われましたのに、あなたには必要ないと言われてしまって……だからまさかこうしてお誘いいただけるなんて本当に夢みたいで」


また一つ、朝比奈さんの言葉の裏付けを得られて、ほっと心が軽くなる。
三年前、倉野さんの同行の申し出を断ったって言ってたのも、本当だったんだ。

背後から聞こえる会話に懸命に耳を澄ませていたら、正面にいたはずの伊崎がこっそり私の隣に回り込んで来ていたことに気づくのが遅れた。


「……今どうなってんだって」


ぼそ、とすぐ耳元で声が聞こえて、ばっと隣を見る。


「ちょっと、何してんの」

「だって聞こえねえって」


倉野さんにバレたらどうすんの!
ボソボソと言い合っているのが聞こえて、彼女がこちらを振り向いたら終わりだ。


仕方なく、そのまま並んで聞き耳を立てることにする。


「私、すごく後悔したんです。関西で随分ご苦労されたでしょう、やっぱり私……お手伝いさせて欲しかった……」


彼女の声は切なげで、朝比奈さんを慕っているのがひしひしと伝わってくる。
きっと支えられる自信があったんだろう、そう思えばあの頃彼から逃げた自分が急に恥ずかしくなり、唇を噛んだ。


さすがにこんな健気な彼女の声を聞けば、朝比奈さんの声も優しくならざるを得ないだろう。
聞きたくないなと思いつつも耳を塞げずにいれば、予想に反して不機嫌にさえ聞こえるほどに急に低くなった声音が響いた。


「それは大変申し訳ないことをしました。昔から専務には目をかけていただいて、その専務の推薦ならば……とも思ったのですが、それよりもさっさと蹴りをつけたくてね」

「え?」


さっきまでと違ってやけに冷ややかに聞こえる声に、倉野さんの声も戸惑っているのがわかる。
おそるおそる振り向いた。


倉野さんの肩越しに、朝比奈さんの表情が見える。


「仕事に無駄な要素は持ち込みたくなかったんですよ。それよりも、専務はまだお越しになられないのかな」


彼は確かに微笑んでいるのだけど。
とても笑っているようには見えないのは、なぜか。

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