極上スイートオフィス 御曹司の独占愛

「後悔したよ。大阪行きなんて引き受けるんじゃなかった。何度も引き返そうとする足を、押しとどめて前を向いた」


そこまで、経営状況は悪かったのだろう。
生半可な覚悟では、立て直しなど出来ない状況だったのだろう。


それだけの責任を背負って、彼は大阪に向かったのだ。


彼の言葉を聞いていても、なんとなく、わかってしまった。
後悔はしていても、時間を戻せたとして、彼はきっと同じ選択をしたんじゃないかって。


私だけの為に、他の全てを捨てたりは、できない人だ。


弱い私を、連れては行けなかった。
置いてもいけなかった。
だから、手放した。


もう十分だと思った。
あの日私が泣いたように、彼も同じ苦しさを抱いてくれていた。


もしかすれば私以上の苦しさを、耐えて前を向いていた。


「すぐにでも引き返せたら、そればかり考えた」


指がくすぐったいほどの優しさで唇の肌を撫でる。
ゆっくりと、もどかしいほどの速度で彼の唇が傾いで近づき、私は静かに目を閉じる。


「振り向いて、抱きしめて……もう一度キスしたかった」


あの日の彼の後悔を、私の涙を、すべてを癒していくかのように
吐息とキスが私の唇を温めた。

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