極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
店長は、接客業二十年のベテランで、この店に就いてからも長い。
厳しいところはあるが、信頼できる人物だった。
「様子見にしてはいくらなんでも長すぎやしませんか。接客なんて数をこなさないと最初から上手くできるものでもないでしょう」
店長と倉庫まで来て話を聞く。
ミーティングルームが空いておらず、致し方なく立ち話だが、他の販売員もいる休憩室よりはまだ話しやすい。
「そんなことはわかってますよ。あの子、商品も価格もカードの種類も全部暗記は出来てるんですけどねぇ」
「だったら尚更」
「上がり症がひどくて初っ端パニックになってしまって。それはもう、お客様の前でお金はひっくり返すわ躓いてぶつかるわ」
どうやら、かなり派手にやらかしたらしい。
さっきの表情の翳りはこれだったか、と思わず吹き出しそうになる。
「そ……れは。でもまあ、何度も経験すればそのうち」
「本人がちょっと萎縮してしまってね。それにそのうち本社に戻るなら接客は重要でもないでしょう? 彼女、接客以外は結構便利というか……頭の回転が早くて優秀ですよ」
『便利』という単語がひっかかるが、意外や意外、他は案外高評価だった。
「状況判断が早いんです。一番仕事の出来ない自分はすぐに一歩下がって、会話を聞いて必要な商品補充や熨斗の準備やらのサポートに走る。裏方業務の把握が早い。お客がいなければ率先して在庫確認や備品の補充とか、やることは山ほどありますからね。私がやらせてるんじゃなくて、彼女がそう動いちゃうんですよ。それでつい」
「……なるほど」
「上がり症でパニックになるから、と接客には尻込みしてるんでしょうね。けど、店の流れを掴むのは早かったし本当に助かってますよ」
それは確かに、便利だ。
もたもた慣れない接客に時間を取られるよりも、各段に周囲の仕事が早くなる。
だが、それでは心配な部分もあるのだ。
「ずっと倉庫整理ばっかりじゃあ負担になるんじゃないかと思ったんですが」
「嬉々としてやってますよあの子。多分、自分に自信がついてくれば接客もマシになるんじゃないかと思いますが、今回は副の西口にもいろいろ経験させたいので、教育は彼女に任せてあります。私、この店長いし多分来期辺り異動でしょう? 信頼できる人間に任せていきたいんですよね」
ああ、と納得をする。
なるほど、それで西口さんと組んでロープレをしていると言っていたのか。