極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
思わず笑ってしまった僕に、彼女は泣きそうな顔で慌てて言った。
「すみません! 私なんかがどうなりたいとかじゃないので、ただ、ほんとに」
ほんとに、と語尾が震えて、そこから言葉が続かないようだった。
ぎゅっと強く目を瞑って唇を噛む彼女を見て苦笑いが浮かぶ。
決して彼女を笑ったわけではなかった。
ああでもないこうでもないと、彼女に近づく算段ばかりで、彼女に先を越される自分が情けなく思えてきたのだ。
「いいよ。付き合おうか」
驚いて僕を見上げる彼女の腕を取って、ゆっくりと引き寄せる。
「え……え?」
真赤になって目を泳がせて途惑う顔を見ていれば、彼女の脳内には今クエスチョンマークがあちらこちらと飛び交っているのだろうとわかる。
静かに柔らかく抱き寄せてから、存在を確かめるかのように、胸に抱きしめた。
細い身体と体温を、腕の中に閉じ込めるように。
これからゆっくり、彼女のペースに合わせて口説こうか、なんて構えていた僕の腕の中に彼女の方から飛び込んできたような感覚。
口説くつもりが、すっかり陥落されたのは僕の方だった。
キスをするのは、まだ早い?
がっつきすぎたら、嫌われるだろうか。
そう思ったら、僕はこの日、彼女にキスのひとつも出来なかった。
この日から僕は、君が可愛くてしかたない。
気が付けばいつも、目が追いかけていた。
くだらない嫉妬もいくつもしたし、悟られないように笑う僕は道化だ。
きっとあの頃の僕の心情を君が覗き見たとすれば、幻滅してしまうかもしれない。