極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
「そんなに怯えなくても」
「や……怯えてるわけでは」
いえ嘘です。
怯えてます。
色恋のことで動揺している場合では、なかった。
彼の手元にあるのは、私のエリアの店舗の売上推計だ。
恐らくは、彼から引き継いできてからこれまでのもの、全てだろう。
彼から引き継いでからというもの、維持するのに精いっぱいで、売上アップとは言えない現状が続いていた。
「……うん」
全て把握したのか、顔を上げた彼が最初に発したのは、それだけ。
何を言われるだろうかと、身構えた手が膝の上で固く拳を握る。
だけど聞こえたのはお叱りではなく、そんな私の緊張をほどくような、柔らかい声だった。
「引き継いで三年、どうだった?」
「えっ」
ぱち、と瞬きをして間抜けな声が出た。
彼は、資料を長机に置き、両手を組み合わせて私を見て微笑んでいた。
「遠慮しないで正直に言っていいよ。大変だった?」
私に自分で話させるように、彼の誘導的な言葉が続く。
い、いいのかな?
正直に言っても?
朝比奈さんの表情を伺っていると彼が「どうぞ」とでも言うように小さく頷く。
ならば。
こく、と私も一度頷いて深呼吸する。
「…… 大変でした! すっごく!」
私の口から飛び出したのは、恨み辛みのこもった、真っ正直な答えだった。
だって、本当に大変だった!
朝比奈さんが散々水準を上げてしまった後だよ。
これ以上、どうしろっていうのってくらい、売上予算の値も高くなってしまっていたのだ。
プレッシャーしかない。