極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
そこで一度言葉を止めた彼は、微笑みも引込めて真直ぐに私を見つめる。
その視線に捕まった。


「そんな風に成長するところを、傍で見ていたかったけど」


心臓が、忙しなく動き始める。
彼の言葉が、仕事のことを指しているだけではないような気がした。


まるで別れたことを後悔しているような、別れたいと言った私を責めているような、そんなニュアンスに感じたのは。


私の、自意識過剰だろうか?


「……仕事に関係ない話は、しないでください」


見つめる視線がどうしようもなく真剣な気がして、怖くなって俯いた。
彼からの返事はなかなかなくて、私はずっと視線を伏せて逃げ続け、やがて溜息混じりの声を聞く。


「……仕事の話だよ」


本当に、そう?


どくどくといつまでもおさまらない心臓の音を聞きながら、私は早くこの空間から逃げ出してしまいたかった。


「さっきも言ったけど、よく食らいついてると思うよ。最初の年は落としたけど、その後はちゃんとクリアしてきてるしね」


息の詰まる空気を振り払ったのは、朝比奈さんの声だった。
気まずくするのも立て直すのも、この場の空気は朝比奈さんが握っているようなものだ。


それでも、ほっとした。


「ありがとうございます……でも、ギリギリで」

「充分。元々、頭打ちの衒いもあるエリアだったんだ。これからアップしていくにはちょっと、何か考えないといけないかもな」


すっかりと仕事モードとなった彼は、年間の売上表から店舗ごとのものへと資料を捲る。


「何か、ですか」

「うん。僕も考えておくけど、現状の店舗を肌で知ってるのは吉住だから、君も考えておいて。宿題ね」


そう言うと、資料を束ねて両手に持ち、とんとデスクで紙を揃えた。

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