極上スイートオフィス 御曹司の独占愛

ところが、どういうわけか突然連れて来られたのは、朝比奈さんのエリアの百貨店だった。地下の洋菓子フロアにうちのメーカーが入っているが、私と朝比奈さんが居るのは、上階の賑やかな催事会場だ。


「すみません、これひとつください」

「ありがとうございます! 六百円になります!」


いくつもの洋菓子メーカーのブランド名を掲げたワゴンがひしめき合っている。
私は勿論、朝比奈さんもスーツの上着を脱いで黒のエプロンで接客中である。


なんでも、地下の販売員で回す予定だったのが、午後からのバイトの子が急にお休みになり、休憩も取れない状況に陥っていたらしい。


「悪いね、ほんとはこんな予定じゃなかったんだけど」

「いえ、全然! お役に立ててうれしいです」


朝比奈さんが接客の合間に小さく声をかけてくれるけど、すぐに次の接客に追われて会話もままならない。
だけど、この忙しさが心地よかった。


入社した最初の一年、私が経験を積んだ場所でもある。
本社に戻ってからまだ一年も経ってないのに、とても懐かしく感じて久々の接客もすごく楽しい。


「朝比奈さん、デセが足りません! パレも少ないです!」

「わかった。補充しに行くから、ここ頼むね!」


ギフト用の高価な洋菓子がお手頃な価格になるワゴンセールは大人気でどのメーカーも遜色なく飛ぶように売れていた。
売場の販売員全員の休憩が終わるまでの二時間は、まさに目の回るような忙しさで時間はあっという間に過ぎる。


< 32 / 237 >

この作品をシェア

pagetop