極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
販売員がふたり交代しに来てくれた時には少し客足も退き始め、時刻も午後八時を回っていた。
私たちに向かってペコペコと何度も頭を下げてくれる。


「朝比奈さん、吉住さんも、本当にありがとうございました、助かりました」

「いいよ。それよりもっと早くに連絡くれたら、すぐに来れたのに」

「朝比奈さんお忙しいのにそんな気軽に頼めないですって」


よかったらこれ、と手渡されたのはテイクアウトのコーヒーだった。
二人分ありがたく頂戴して、百貨店内に駐車場に停めてある車に戻れば、もう八時半。


朝比奈さんは運転席、私は助手席に落ち着いて、途端にどっと疲れが押し寄せ二人同時に溜息を吐く。


無言の中コーヒーの香りが車内に漂った。


ぱか、と蓋を開ければ、一層濃い。
ひとくち啜れば、すきっ腹の胃袋に熱いコーヒーが沁みた。


「ほんと、助かったよ。飯、何食べたい?」

「えー……っと。なんか、通り過ぎちゃったっていうか食欲が」

「だよな。ちょっと休憩してから考えようか」


まだ車は動かないまま、ずず、とコーヒーをすする音がする。
それから少し間を置いて、なぜか「くす」と朝比奈さんが小さく笑った。


「なんですか?」

「いや。吉住が生き生きしてたなと思って」


そう言うと、彼がコーヒーをドリンクホルダーに入れ、両腕をハンドルに預けて私の方を見る。
大人で、どこか男っぽい仕草に、少しドキっとした。


「楽しかったです。店舗、やっぱり好きだなあ」

「楽しそうだった。本社に来てからは萎縮してびくびくするようになったけど、ほんとはもっと機転が利く子だよなってずっと思ってたよ」

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