極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
ビールにカシスサワーと、豆腐サラダと生春巻をオーダーし、待ってる間も彼は隣を動こうとしない。
逃げることは諦めたものの、この距離は絶対おかしい。


「ほんと、お願いですから向かいに座ってください。もう逃げませんから」


近すぎて、身体が変になったんじゃないかってくらい熱い。
ふわ、と香ってくるシトラスとお酒の匂いに、くらくらする。


意識し過ぎなのはわかってるけど、してしまうものは仕方ない。


「……そんなに避けられると、さすがに傷付くんだけど」

「って、言うか避けられてるってわかってて、こんなやり方……」


自覚があって、こんなぐいぐい来るかな普通。


「話したいって何度も言ったのに、真帆はのらりくらり躱すだけだ。大人しくしてたら真帆から近づいてくれた?」

「そ、それは」


けど、押してダメなら引いてみなって言葉もあるように、こんなやり方されたら逃げたくなっても仕方ないと思う。


「聞くけど、なんで真帆はそんなに逃げるの」


テーブルに頬杖をつき、彼が笑みを浮かべて私の顔を覗きこむ。


「え?」

「僕に近寄られるのが怖い?」


びく、と肩が揺れた。
頬が強張って、嘘でも怖くないと言えれば良かった。


け れど、見透かされているような気がしたのだ。


私は、怖い。
再びあなたに近づくのが怖い。


あなたの引力に逆らえなくなる自分をちゃんと、知っているから。

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