極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
ふる、と軽く頭を振って、真直ぐ朝比奈さんの目を見た。
しっかりしろ、自分。
もう、あの恋は繰り返さないと、自分で決めたじゃないか。
「怖いんじゃなくて、昔の話を蒸し返されたくないだけです」
毅然とそう言ったのに、彼はなぜかにっこりと笑った。
「蒸し返すって、例えば?」
「え?」
「よりを戻したいって言われたらどうしよう、って?」
彼の口調は、少しからかいを含んだものに聞こえて、私はしばしその意味を考えたあと。
さーっと血の気が引いたような気がして、それから次の瞬間にはカッと頬が熱を持った。
まるで、自意識過剰だと言われたような気がした。
確かにそうだ、昔の話をしたいとは言われたけれど、それだけでこんなに逃げ回ったら、復縁を意識しているように思われても仕方ない。
「ちがっ……」
反論しようとしたけど、『違います』以降の言葉が浮かばない。
焦ったけれど、店員の声で救われた。
「お待たせしましたー! お飲み物とサラダお持ちしました!」
相変わらず近距離で座ったままの私と朝比奈さんにはもはや無反応で、ビールとカシスサワー、豆腐サラダを順にテーブルに置いていく。
その間私は固まったままで、会話も不自然に止まったままだ。
「失礼しましたー」と店員が戸を閉めた、そこで再開する。
「わ、私帰りますっ!」
もうやだ。
恥ずかしさと悔しさで席を立とうとすれば、手首を掴んで引き留められた。
「ごめんごめん、冗談だから」
そんなふうに言いながら、彼は少しも焦ってもいなくて、楽しそうに笑っている。
それを見れば、尚更頭に血が上る。