極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
「からかって面白いですか、ひどい!」
「ごめん。謝るから帰らないで」
彼が、中央に置かれていたビールのジョッキとカシスサワーのグラスを目の前まで引き寄せた。
「ほら、せっかく飲み物も来たんだし大人しく座って」
「……」
手首はまだ捕まったままだけど、振り払おうとすればできた。
けど、私ひとり取り乱して、彼は大人然と落ち着いたままなのを見ていると、自分があまりに子供染みた反応をしているような気にもなった。
渋々、あげかけていた腰を下ろす。
そんな私を見て彼はまた、優しく微笑むのだ。
「それに、間違ってないしね」
「何がですか」
「真帆の警戒」
カシスサワーのグラスに伸びかけていた手を止めて、朝比奈さんを見た。
朝比奈さんの言葉の意味を、額面通りに受け止めてはいけないと、頭の中が防波堤を作っている。
「また、そんなことを」
「ほんとだよ。どうすればもう一度真帆に好きになってもらえるのか考えてる」
彼はそう言うと、ふいっと目を逸らして私に横顔を見せた。
私は、胸が少しずつ鼓動を早めるのを感じながら、その横顔に瞬時見入った。
また冗談?
何が本当?
彼が豆腐サラダの器を引き寄せ、私に向かって手を伸ばす。
見つめていた横顔が、くるりとこちらを向いて、驚いて肩が跳ねた。
「真帆、そっちの取り皿取って」
「……あ! すみません私が」
「いいよ、貸して」
もうさっきの話は流れてしまったかのように、彼は何事もなく豆腐サラダを取り分けようとする。