極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
だけど、狭いところに無理矢理座っているので腕の挙動範囲が狭くて肘が当たった。
その拍子に手元が狂ったのだろう。
「あ。跳ねた」
「え。あー!」
サラダのドレッシングが跳ねて、朝比奈さんのスーツの襟を汚してしまっていた。
慌てて濡れたおしぼりをあてたけれど、薄らと生地に沁み込んでいた。
「もう、だからこんな狭いとこに座るのがおかしいんですって」
「ははっ」
「笑ってないでちょっと上着脱いでください、ちゃんとシミ抜かないと」
「いいよこのままで。クリーニングに出すし」
「でも」
ちょっとでも、布か何かで挟んで叩いた方が落ちやすいと思うのだけど。
なんで脱がないの、と、顔を上げる。
瞬間、ふ、と笑った彼の吐息が頬にかかった。
同時に今更、気が付く。
スーツの襟にしがみつき私の方から至近距離まで近づいてしまっていて、私を見下ろす彼の表情が嬉しそうに綻んでいた。
じわ、と汗から涙から滲み出そうなくらいに体温が上がる。
そろそろと手を離して、腰をずらして座っている位置を遠ざけた。
「や、やっぱり、近いと食べにくいですよ。私が向こうに行きます」
最初から、私が動けばよかったのだ。
真赤な顔を隠すにももう遅すぎるが、ふいっと目を逸らして立ち上がろうとしたのだが。
「けど、遠いと話しにくい」
「この距離の方が話しにくいですよ普通っ!」
「じゃあ、これ飲みきったら向こうに行っていいよ」
とん、と彼がカシスサワーのグラスの淵を、指で叩いた。
「って、なんでそんな許可が必要なんですか!」
「上司命令」
「パワハラです!」
そう言いつつも、私はグラスを手に取ると、やけくそになって一気に煽った。
これですんなりと距離を取れるなら安いものだと思ったからだ。
グラスを空にして、ぷは、と息を吸う。
これでどうだ、とテーブルにグラスを置けば、彼が呆気にとられたあと面白く無さそうにぼやいた。
「……何も一気飲みすることないのに」
しますよ!
これで正常な距離感を保てるのなら!