極上スイートオフィス 御曹司の独占愛

社用車で行く時もあるけれど、私が担当するエリアは店舗が密集していて駐車する場所に困ることも多い。
特に今日周る予定の地域は、大きな繁華街で百貨店だけなら専用駐車場があるからいいのだが、その他の店舗との行き来を考えると車を出したり止めたり渋滞にはまったり、を考えると電車移動の方が便利だ。


朝九時、東武百貨店の開店少し前、従業員用の通用口まで着いたところで伊崎の手からショップバッグを受け取ろうとした。


「ごめんね、助かった」

「おう」


と返事をしつつ、彼はショップバッグを持ったまま私の手を避けるのだ。


「……何? 早く行かないと伊崎もまずいでしょ」

「昼、どこにする?」


どうやら、昼の約束をしなければショップバッグを返してくれる気はないらしい。
じろりと見上げると、にかっと人懐こい笑顔が降って来る。


「……ちっ」

「舌打ち!? ひでえな!」


だって別に、私だってお礼に奢ろうとは思っちゃいたけどそんな言われ方すれば素直に『いいよ』って言い難くならない?


「午後一時過ぎ、いつもの駅でいい?」


仕方ない体を装って、首を傾げて片手を差し出し手のひらを上向けた。
だから、早くそれ返して、お互いに仕事に戻ろうよ、っていう意味だ。


するとようやく、男は満足げにショップバッグの柄を掴んだ手を、私の手のひらの上に掲げる。


「了解。素直じゃないんだから」

「うっさい。わっ!」


どさ、と一気にショップバッグの重みが手にかかる。
そうだ。
確か、私が持ってたのよりこっちの方が二箱分多い。


あの一瞬で、重い方を選んで持ってくれていたのかそれとも偶々か。

< 6 / 237 >

この作品をシェア

pagetop